売買や贈与など、多くの場合に自動車の名義変更には実印を押した譲渡証明書と印鑑証明書の添付が必要になります(軽自動車を除く)。これは、不動産などと同様に、高額な物品の所有権移転について、譲渡人の正しい意思に基づくことを確認する意味があります。
これに対して、例外となるのが「相続による自動車の所有権移転」です。所有者が亡くなった後は、他の人に所有権を移すという意思表示ができませんし、当然本人の意思であるかを確認する方法も必要もないということになるからです。
このように、相続による自動車の名義変更(所有権の移転登録)は、売買や贈与などと異なる書類によって可能となります。以下に、必要書類等について確認していきます。
相続による名義変更の必要書類
上記の通り、売買や贈与などと異なる点は「旧所有者による譲渡証明書が作成できない」という点ですので、譲渡証明書に替えて何が必要になるか、というのがその答えとなります。それ以外の書類は基本的に違いはありません。
売買や贈与と異なり旧所有者の意思によって所有権を移転するのではないので、相続の場合は、所有者の死亡の確認と、新所有者となる人が確かに相続人であって、当該自動車について所有権を承継する権利を有するかを確認する書類が必要となります。具体的には、以下のように「遺産分割の方法に応じた書類」と「戸籍謄本または戸籍の全部事項証明書(遺産分割方法により必要事項が異なる)が必要となります(ただし、ここでは”共同相続”の場合は除きます)。
【A.遺産分割方法に応じた書類(いづれかが必要)】
- 相続人全員の実印を押印した遺産分割協議書
- 遺言書(公正証書遺言以外の場合、家庭裁判所の検認をうけたもの)
- 遺産分割に関する調停調書
- 遺産分割に関する審判書(確定証明付き)
- 判決謄本(確定証明付き)
- 名義変更の申請人である相続人が実印を押した遺産分割協議成立申立書
【B.戸籍謄本または戸籍の全部事項証明書】
- 上のAのリスト、①の場合、被相続人の死亡が確認でき、被相続人と相続人全員の関係が証明できるもの
- リストの⑥場合、被相続人の死亡が確認でき、名義変更の申請者(=遺産分割協議成立申立書の申立人)である相続人の関係が証明できるもの
- リスト②③④⑤の場合は、被相続人の死亡が確認できるもの
遺産分割の手続
裁判の判決謄本…なども出てきて、少々いかめしくなってきましたね。ここで、本題から少し外れますが、相続人が複数の場合の、遺産分割の手続を段階を追ってごく簡単に記してみます。
相続は、被相続人(亡くなった方)の死亡の瞬間に開始し、相続財産は法定相続人の共有になります。この共有の財産を分割するのが遺産分割手続で、次のようなものがあります。
- 遺言による分割
被相続人が遺言により遺産の分割の方法を定めた場合、原則としてこれに従います → 名義変更の必要書類は②となる。。 - 遺言がない場合、相続人間で協議して決定する。遺産分割協議の成立には、共同相続人全員の合意が必要となります。 → 合意成立していれば、名義変更の必要書類は①または⑥となる。
- 相続人間の協議がまとまらないか協議ができない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停の結果合意が成立すると → 名義変更の必要書類は③となる。
- 調停がまとまらないときは、家裁の審判手続きに移ります。審判が下ると → 名義変更の必要書類は④となる。
- レアケースですが、訴訟に発展した場合は判決による場合があります → 名義変更の必要書類は⑤となる。
遺産分割協議書
実際の遺産分割では、共同相続人の協議(話合い)で行われることが多いと思います。遺産分割は一部分割は可能ですが、多くの場合全部の分割を合意して遺産分割協議書にまとめるます。遺産分割協議書では、預貯金や不動産、有価証券、自動車などの財産について、それぞれどの相続人が相続するかを記載し、相続人全員が実印を押印します。自動車についてのみ相続人を定めた遺産分割協議書を作成することもできます。
遺産分割協議成立申立書
遺産分割協議書は、相続人全員で実印を押したものであることが必要ですが、相続財産である自動車の価格が100万円以下である場合は、名義変更の申請者(実際にその自動車を相続する方)が実印を押した遺産分割協議成立申立書の提出で登録を行うことができます。
ただし、遺産分割協議成立申立書を用いる場合は、その自動車の価格が100万円以下であることが確認できる査定証等の資料の写しを添付することが必要になります。
また、申立書の名義と押印は、自動車を相続する人のみで良いですが、相続人全員の合意で協議が成立したことを申し立てるものであり、(他の相続人の)同意を得られたことを記した上で、運輸支局長あての誓約分も付けて出すものなので、1人の意思で勝手に作ってよいものではないことに注意が必要です。
相続特有の書類以外の必要書類
以下は相続に限らず、自動車の名義変更(移転登録)に必要な書類ですので、ご確認下さい。
- 移転登録申請書 :いわゆるOCRシート
- 手数料納付書 :500円の収入印紙を貼付
- 新所有者の印鑑証明書
- 新所有者の委任状(代理人による申請の場合)
- 新使用者の委任状(所有者と使用者が異なる場合)
- 自動車保管場所証明書(使用の本拠の位置が変更になる場合で、保管場所証明書適用地域の場合)
上記の他に書類が必要になるケースもあります(例:単身赴任先で使用するなど、使用の本拠の位置が住民票の住所と異なる場合、法人の出先機関で使用する場合‥‥など)。
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まとめ
自動車登録の書類(申請書や添付書類)は、作成そのものは難易度が高いものではありませんが、手続が必要になるケースがかなりいろいろあり、ケースによって必要書類が異なることも多いので、必要書類を的確にそろえることはそれなりに難しい場合もあります。
相続以外では、会社と会社の代表取締役個人との間で所有権を移転する場合に、株主総会または取締役会議事録が必要になる、といったケースもあります。
一般の方にとっては、自動車の購入・売却、引越しによる住所変更等は身近な手続かもしれませんが、相続などは一生のうちに数度というのが普通です。めってにない手続について頭を悩ませるより、行政書士に任せて素早くスッキリと手続きを済ませるというのも一つの方法ではないでしょうか?
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