よく解る、運送業の法定帳票整備(後編)

よく解る、運送業の法定帳票整備(前編)」では、基本となる法定帳票5種のうち「運転者台帳」と「点呼記録簿」について解説しました。

このページでは上記に続いて、基本帳票の遺り3種類である「運転日報(乗務記録)」、「教育実施計画・運転者指導記録簿」、「定期点検記録簿」についてわかりやすく解説します。

それでは、運転日報から見ていきましょう。

運転日報(乗務記録)

事業者等は、乗務実態を正しく把握して過労運転防止など安全運行を確保し、運行管理上の資料とするため、運転者に運転日報を記録させ、1年間保存しなければならない、とされています。

これは、運行管理者等が運転者の乗務実態を正しく把握することで過労運転防止など安全運行を行うためなどの目的のため義務付けられているものです。

(書式例 : 愛知県トラック協会ー運転日報

運転日報の記載項目

  • 運転者名
  • 乗務した車両のナンバー、車番等
  • 乗務開始、終了の地点と日時、主な経過地点、乗務距離
  • 運転を交代した場合は、その地点と日時
  • 休憩または睡眠をした場合はその地点と日時
  1. 車両総重量8t以上または最大積載量5t以上の車両に乗務した場合の特定の記載事項
  2. 交通事故(下記)および著しい運行の遅延その他異常な状態が発生したとき、その概要
  3. 運行途中で運行指示書が必要な乗務になった場合はその指示内容

⑥8t/5t以上の車両に乗務した場合

車両総重量8tまたは最大積載量5t以上の車両に乗務した場合は、以下の項目も記載しておかなければななりません(書式例の愛知県トラック協会版では2ページ目にあります)。

  • 貨物の積載状況
    過積載の有無を判断するための記録として、貨物の重量または個数、貨物の荷台への積み付け状況等を可能な限り詳細に記録すべきものとされています。
  • 荷主都合により集荷・配達地点で待機した場合は次の事項
    • 集荷地点等
    • 集荷地点等への到着時刻を荷主に指定された場合はその日時
    • 集荷地点等に到着した日時
    • 集荷地点等での荷積み、荷卸しの開始、終了時刻
    • 集荷等地点で、貨物の荷造り、仕分け等の付帯業務を行った場合は、その開始、終了日時
    • 集荷地点等から出発した日時

※②については、集荷地点等への到着から出発までの時間のうち、荷積み・荷卸し・附帯作業等の業務時間、休憩時間を除いた時間を「待機時間」ととらえ、待機時間が30分未満の場合は記録書省略しても構いません。待機時間が荷主都合(荷主の指示等)で生じた場合が対象で、運送事業者自身の都合による待機時間は対象ではありません。

運行記録計による記録

いわゆるタコグラフです。

  • 車両総重量7tまたは最大積載量4t以上の車両は運行記録計(タコグラフ)による記録をし、その記録を1年間保管することが必要です。
  • 運転日報を運転者に記録させることに替え、運行記録計(保安基準に適合するもの)の記録紙を貼付するなどで日報とすることができます。この場合、運行記録計で記録される事項以外の記載項目は、運転者ごとに記録紙等に追記させることが必要です。
     (記録紙を貼付する日報の例 愛知県トラック協会ー運転日報(タコグラフ用紙版)
  • 運行記録計が、いわゆるデジタコである場合は、書面の記録・保管に替え、電磁的方法による記録・保管とすることができます。

運転者に対する指導記録簿

事業者は、“指導・監督の指針(下記※)”に基づき、運転者に対して「指導及び監督」を毎年実施することが必要です。そして、その日時、場所、内容、指導・監督を行った者および受けた者の氏名を記録して、これを3年間保管しなければなりません。
(書式例 : 広島県トラック協会ー乗務員教育記録簿

◆運転者に対する指導をどう行ったらよいかは、国交省が告示で示しています。
貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導および監督の指針

運転者に対する指導及び監督の種類

運転者に対する指導及び監督には・・・

  • 一般的な指導および監督
  • 特定の運転者に対する特別な指導

の2種類があります。

一般的な指導及び監督とは

  • 大型トラックなど事業用自動車の特性や、道路その他運行状況の理解を促し、それらを踏まえた  安全運転の方法などについて理解、習得させるもの。
  • 指針に示す内容に基づいて、年間教育を立案し、実施する。指針の内容は12項目あり、毎月1項目など、計画的・定期的に実施することが望ましい。

一般的な指導及び監督の内容

  1. 事業用自動車を運転する場合の心構え
  2. 事業用自動車の運航の安全を確保するために遵守すべき基本事項
  3. 事業用自動車の構造上の特性
  4. 貨物の正しい積載方法
  5. 過積載の危険性
  6. 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
  7. 適切な運行の経路および当該経路における道路及び交通の状況
  1. 危険の予測および回避並びに緊急時における対応方法
  2. 運転者の運転適性に応じた安全運転
  3. 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
  4. 健康管理の重要性
  5. 安全の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法

もう少し詳しく知るには ‥‥国交省 安全教育マニュアル(トラック)概要編

さらに詳しく知るには  ‥‥国交省 安全教育マニュアル(トラック)本編

特定の運転者に対する特別な指導とは

特定の運転者に対する特別な指導には…

  • 事故惹起運転者に対する指導
  • 初任運転者に対する指導
  • 高齢運転者

の3種類があります。

「事故惹起運転者に対する指導」の概要

対象の運転者は「死者または重傷者を生じる事故を起こした者」と、「軽傷者を生じた事故を起こし、かつその前3年間に交通事故を起こしたことのある者」となっています。

実施方法と内容

  • 事故後、再度乗務する前に実施(やむを得ない場合、再乗務開始後1か月以内)
  • 外部の適性診断(特定ⅠまたはⅡ)を受診させ、その診断結果による運転者の特性等を踏まえて話し合いをするなどきめ細かな指導を行う
  • 法令、事故事例その他の座学6時間以上実施する。安全運転実技指導は可能な限り実施する。
実施内容
① 事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令
事業用自動車の運行の安全を確保するため貨物自動車運送事業法その他の法令等に基づき運転者が遵守すべき事項を再確認させる。
② 交通事故の事例の分析に基づく再発防止対策
交通事故の事例の分析を行い、その要因となった運転行動上の問題点を把握させるとともに、事故の再発を防止するために必要な事項を理解させる
③ 交通事故に関わる運転者の生理的および心理的要因並びにこれらへの対処方法
交通事故を引き起こすおそれのある運転者の生理的及び心理的要因を理解させるとともに、これらの要因が事故につながらないようにするための対処方法を指導する。
④ 交通事故を防止するために留意すべき事項
貨物自動車運送事業者の事業の態様及び運転者の乗務の状況等に応じて事業用自動車の運行の安全を確保するために留意すべき事項を指導する。
⑤ 危険の予測及び回避
危険予知訓練の手法等を用いて、道路及び交通の状況に応じて交通事故につながるおそれのある危険を予測させ、それを回避するための運転方法等を運転者が自ら考えるよう指導する。
⑥ 安全運転の実技
実際に事業用自動車を運転させ、道路及び交通の状況に応じた安全な運転方法を添乗等により指導する。

※①~⑤までについて、合計6時間以上実施すること。⑥については可能な限り実施することが望ましい。

「初任運転者に対する指導」の概要

  • 当該事業者において初乗務を行う前に実施(やむを得ない場合、乗務開始後1か月以内)
  • 外部の適性診断(初任診断)を受診させ、その診断結果による運転者の特性等を踏まえて話し合いをするなどきめ細かな指導を行う
  • 初任運転者については、運転記録証明、無事故・無違反証明書などにより事故歴の確認もおこなうこと
実施内容
① 貨物自動車運送事業法その他の法令に基づき運転者が遵守すべき事項、事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な運転に関する事項等
第1章2に掲げる内容について指導する。この場合において、同章2(2)のうち日常点検に関する事項、同章2(3)のうち事業用自動車の車高、視野、死角、内輪差及び制動距離等に関する事項並びに同章2(4)のうち貨物の積載方法及び固縛方法に関する事項については、実際に車両を用いて指導する
② 安全運転の実技
実際に事業用自動車を運転させ、道路及び交通の状況に応じた安全な運転方法を添乗等により指導する。

※①を15時間以上、②を20時間以上実施すること。

「高齢運転者に対する指導」の概要

  • 満65歳に達した日以降1年以内に、外部の適性診断(適齢診断)を受診させ、その結果等も踏まえ、当該運転者の身体的機能の変化等を自覚させるなどして指導を行う。

適性診断の受診

特定の運転者(事故惹起、初任、高齢の各運転者)には、それぞれ適性診断を受けさせることが必要です。

新たに雇い入れた運転者の事故歴の把握

新たに運転者を雇い入れた場合は、無事故・無違反証明書又は運転記録証明書等により、雇入れる前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当するか否かを確認すること、とされています。

定期点検記録簿

事業用自動車は、自家用自動車に比べて過酷な環境で使用されることも多く、より厳しい基準で点検整備を行うことが必要です。例えば日常点検は、自家用車では「走行距離や運行時の状態などから判断した適切な時期に」実施することとされていますが、事業用自動車の日常点検は「毎日」実施しなければなりません。

定期点検整備については、自動車点検基準別表第3に定められた点検項目に従い、3カ月ごとに行い、12カ月点検では点検項目を加えて実施することが必要です。

定期点検は、「定期点検計画表」等を作成して計画的に行うことが望ましく、定期点検整備を実施したときは、所要事項を記載した記録簿を遅滞なく作成し、当該事業用自動車に備えおき1年間保管することが必要です。また、この点検記録簿の写しは営業所においても1年間保管しておきましょう。

定期点検記録簿の記載事項

  1. 点検の年月日
  2. 点検の結果
  3. 整備の概要
  4. 整備を完了した年月日
  1. その他国交省令で定める次の事項
    1. 自動車登録番号または車台番号
    2. 点検時の総走行距離
    3. 点検または整備を実施した者の氏名又は名称及び住所

まとめ

前編、後編の2編に渡って、「よく解る、運送業の法定帳票整備」について述べて参りました。法定帳票の整備と、それに基づく管理の実行状況は、適正化実施機関による巡回指導時の評価対象になりますし、運輸支局の監査が入った場合には、行政処分の実施にもつながり得る大切なものです。

さらに言えば、外部の評価のためよりも、法令に基づいたチェック・確認・管理の実施と適正な記録の保管等を通して、事業者、ドライバー、その他の従業員も含めた会社全体の安全運行への意識を高めることが重要で、法令帳票の整備はそのスタートといえるのではないでしょうか。

当事務所では、法定帳票の整備をはじめ、貨物自動車運送事業のコンプライアンス向上へのサポートや、営業所・車庫の増設・移転などの認可申請など、運送事業者様へのトータルサポートを行っております。これらのことでお困りのことがございましたら、お気軽にご相談、ご依頼ください。

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