運送業の車庫を移転、新設するには・・・

運送業(一般貨物自動車運送事業)の車庫を移転または新設(増設)するには、いろいろな要件を満たす必要があります。大型の車両を置く車庫は広い土地が必要になりますが、その土地の立地にいろいろな制約・規制があるので、検討にはその内容をしっかり押さえておくことが重要です。

このページでは、立地に関する要件を中心に、車庫を移転、新設する際におさえておくべきことを解説していきます。

運送業 車庫の移転、新設とは

車庫の移転、新設は認可事項

運送業の車庫の位置と収容能力(広さ)を変更する、または新たにこれを設けることは、”事業計画変更(=事変)”にあたり、運輸支局に申請して認可を受けなければなりません。申請してから認可が下りるまでの期間(標準処理期間)は1-3か月とされています。

車庫に必要な事

運送業の事業用自動車の車庫に必要な事(要件)は、次の通りです。これらは、新規許可時の許可要件と同様です。

  1. 原則として営業所に併設すること。併設できない場合、定められた距離内(埼玉県の場合、10km)であること。
  2. 収容する車両と車両、車両と敷地境界の間隔を50cm確保した上で計画する全車両が収容可能であること。
  3. 他の用途に使用される部分と明確に区画されていること。
  4. 使用権原を有することの裏付けがあること(自己所有=登記簿謄本、賃借=賃貸借契約書 等)。
  5. 農地法、都市計画法等関係法令に抵触しないものであること。
  6. 前面道路との関係において車両制限令に抵触しないものであること。

①の車庫と営業所の距離は、関東運輸局管内では営業所の場所により下表の2区分に分けられています。

所在地(営業所)車庫との
距離
東京都(23区)、横浜市、川崎市20km以内
東京都(23区除く)、神奈川県(横浜・川崎除く)、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県、山梨県10km以内

②の収容能力の詳細は下のリンクで確認いただけます。
車庫の収容能力をくわしく見る

車庫は1か所で全車両が収容できる必要はなく、要件を満たすものであれば、2か所以上に分かれていて問題はありません。

③は、例えば従業員の通勤自動車の駐車場や資材置き場などと重複してはならず、事業用自動車の車庫としてのみ使用する場所が確保され、②の条件(広さ)を満たすことが必要です。

④の使用権原では、賃貸借物件である場合には2年以上の契約期間または期間満了時に自動更新される条項のある賃貸借契約が必要という点に注意が必要です。

⑤関係法令に抵触しないこと、⑥前面道路との関係の2点については、以下にくわしく解説します。

関係法令に抵触しないこと

運送業の車庫は、農地法、都市計画法等の関係法令に抵触しないことが必要です。車庫には有蓋(屋根付き)のものと無蓋(屋根のない青空駐車場)とがあります。有蓋車庫の場合、農地法、都市計画法の他に建築基準法がかかわる場合があります。

農地

農地には、有蓋か無蓋かを問わず車庫を設けることはできません。農地をその他の用途に用いるには農地転用という都道府県知事又は市町村長許可を得る手続きを行って、農地ではないものとしてからでなくては車庫にできません(農地法)。

市街化調整区域

市街化調整区域イメージ

都市計画法に基づき「市街化調整区域(以下略して”調整区域”)」に指定された場所は若干注意が必要です。それは、無蓋車庫なら設けることができるが、有蓋車庫は設けられない、ということです。調整区域には基本的に建物が建築できないからです。

調整区域は、簡単にいえば「郊外」のようなところが多いので、地価が安く運送業の車庫の候補地に挙がりやすいと思います。その際、無蓋(屋根のない)車庫なら問題ありません。ただし、営業所を併設することができない可能性が高いことに留意が必要です。

前面道路との関係

「前面道路との関係において車両制限令に抵触しないものであること」という表現はわかりにくいですね。

「前面道路」というのは、車庫の出入り口が面している道路という理解でOKです。「車両制限令」は、道路を通行できる車両の制限を定めている政令ですが、ここでは前面道路の幅(幅員)と車庫に収容するトラック等の車両幅の関係が問題となります(トラックの長さや重さはここでは問題になりません)。

車両制限令では、地区域にあるかどうかなどで道路を7区分にわけ、そこを通行できる車両の幅を規定してます。以下、市街化区域の内と外に分けて表にまとめました。

道路の区分と車両の幅制限

市街地区域内の道路(車両制限令第5条)

道路の区分①道路の区分②車両制限令通行し得る車両の幅
一般市街道路通常の道路(対面交通)5条2項(車道の幅ー0.5m)÷2以下
同 上一方通行または交通量極小指定の道路5条1項車道の幅ー0.5m以下
駅前・繁華街道路通常の道路(対面交通)5条3項(車道の幅ー1.5m)÷2以下
同 上一方通行または交通量極小指定の道路5条3項車道の幅ー1.0m以下

市街地区域外の道路(車両制限令第6条)

道路の区分車両制限令通行し得る車両の幅
通常の道路6条2項車道の幅÷2以下
一方通行又は300m毎に待避所がある道路6条1項車道の幅ー0.5m以下
交通量極小と指定された道路車道の幅以下

道路総幅員を確認する必要がある場合

上記の2表は、車道の幅を基準に書きましたが、その道路が「歩道または自転車歩行者道のいずれも有しない道路で、その路肩の幅員が明らかでないものまたはその路肩の幅員の合計が一メートル未満のもの」については、総幅員から1m引いたものを車道の幅とみなす必要があります。

道路幅員証明

道路幅員証明書の一例

道路の実際の幅は、メジャーで測っても知ることはできます。しかし、上記のように前面道路が市街化区域内外の別を含めてどの区分の道路に該当するか、を確認しないと車庫に収容するトラックが通行できる前面道路であるかどうかがわかりません。従って、道路幅が実測可能であったとしても、道路管理者による”道路幅員証明書”の確認が必要になります。

幅員証明書は、この確認のためだけでなく車庫の移転、新設の認可申請書の添付書類として提出が必要になります(国道の場合は不要)。

道路管理者とは、県道であれば「県」、市道であれば「市」です(例外あり)。市街化区域の内外をどう設定するか…などについては、道路管理者によって判断、運用がかなり異なります。幅員証明書でも、”車両制限令第5条第2項道路該当”といった表記があるかどうかも異なります。不明点は道路管理者によく確認することが大切です。

前面道路の幅員が足りない場合

車庫の候補地の前面道路が、収容予定のトラックの車幅に足して狭い場合、道路管理者から「特殊車両通行認定」を受けることで、その道路が通行できる場合があります。認定の有効期間が設定され更新の必要があるなど一定の制約が生じますが、その候補地に車庫を置くメリットが多い場合など、一度道路管理者に対して確認、協議してみるのも一つの方法でしょう。

私道に面している車庫の場合

車庫の出入り口が面しているのが私道等の私有地の場合、当然ですがトラックが公道に出るためにそこを通行することについて所有者の同意が必要です。車庫の移転、新設の認可申請に際しても通行同意書といったものを添付する必要があります。

その上で、その私道から公道への出入り口部分を前面道路と考えて、車両制限令に抵触しないことが求められることになります。

事業規模拡大となる事変の場合

事業計画変更(事変)は、基本的には認可事項(一部事項は届出)ですが、事業規模の拡大となる事業計画変更の認可申請には、「法令遵守」の状況が条件を満たしていることも求められます。

車庫の場合でいうと、車庫を新設すること、あるいは既存の車庫の収容能力を拡大する(=面積を広げる)ことが、これに当たります。

この場合には、以下の条件を満たしてなければ認可が受けられません。

  1. 申請日前6か月間に、車両の使用停止等の行政処分を受けていないこと
  2. 申請日前3か月間に、適正化期間が行う巡回指導で「E」評価を受けていないこと(ただし、指摘を受けた全項目について改善報告を行った場合は除く)
  3. 申請日前3か月間に、その営業所で自らの責による重大事故(自動車事故報告規則第2条に定める事故)を発生させていないこと
  4. 申請する営業所に配置している事業用自動車について、有効な車検証を受けていること
  5. 貨物自動車運送事業報告規則による事業報告書、事業実績報告書や、運賃・料金の届出等、届出・報告義務違反がないこと
  6. 運賃(運送の役務の対価)と、料金(運送以外の役務等の対価)とを区分して収受する旨を明確に定めている運送約款を使用していること

認可申請の必要書類

車庫の移転、新設の認可申請は、以下の書類を車庫の属する営業所所在地を管轄する運輸支局に提出して行います。標準処理期間は1~3か月です。

  • 事業計画変更認可申請書
  • 運行管理の体制を記載した書類(様式ー1)
  • 使用権原を有することを証する書類(自己所有=登記簿謄本、賃借物件=賃貸借契約書 等)
  • 都市計画法等関係法令に抵触しないことを証する書類(宣誓書)
  • 車庫の案内図、見取図、平面(求積)図、写真
  • 車庫の前面道路の幅員証明書(または幅員が車両制限令に抵触しないことを証する書類)
    前面道路が国道の場合は不要。
  • 宣誓書(様式例3) =上記「事業規模拡大となる事変」の場合に必要

まとめ

車庫は、建築物を伴わない無蓋(屋根なし)車庫であれば、市街化調整区域にも設けることができるので、営業所に比べて立地面の制約は多くはありません。しかし、前面道路と車両制限令の関係は比較的理解が難しいところもあり、事業者の皆さまも迷うことが多いのではないでしょうか?

また、新規許可申請と同様に、収容能力が必要ギリギリの場合には精度の高い求積図や車両配置図といった図面が必要になる場合もありますので、その場合には事業者様の申請の負担も大きくなります。

当事務所では、法令適合調査やCADによる図面作成など、車庫の移転、新設を一貫サポートいたしておりますので、これらでお困りでしたらご利用をぜひご検討下さい。

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