2025年の通常国会で、トラック適正化2法(トラック新法)が可決、成立しました。この2法のうちの一つ、貨物自動車運送事業法の改正により、一般貨物自動車運送事業の許可は5年ごとの更新制が導入されます(特定貨物自動車運送事業も同様)。
また、従来法令上の規制がなかった運賃・料金に関して、「適正原価を下回る運賃及び料金の制限」が行われることとなっています。
トラック適正化2法は、「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」と「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」の二つの法律を指しますが、以下では、前者による改正法を「改正事業法」、後者を「適正化法」として、その概要を確認していきます。
トラック新法の概要
上記の通り、トラック新法でトラック運送事についての実体的な規制等を定めるとともに、適正化法で、事業法で新たに導入される許可更新制等の事務を独立行政法人に行わせることなどを定めています。
トラック新法が定められる背景としては、
規制緩和による事業者数の増加 => 過当競争で運賃・料金が低迷 => ドライバーの低賃金・長時間労働 =>担い手不足による輸送能力減少の見通し
といった状況があります。2025年になっても2024年問題はまだまだ未解決、ということですね。
なので、トラック新法は
- 目的: 国民生活や経済・産業を支えるインフラである物流の持続可能性を確保するため
- 規制の骨子:
・トラックドライバーの適正賃金確保など処遇改善
・処遇改善の原資となる、適正な運賃・料金の実現
・トラック運送業界の質の向上
というものになります。
改正事業法
改正後の貨物自動車運送事業法の各規定は、法の公布(2025年6月11日)から1年以内施行または3年以内に施行されます。施行期日別には以下の通りです。施行期日別にその規程内容を記すと以下の通りになります。
1.公布から1年以内に施行される規定
- 下請けの次数制限(二次下請けまでに制限、努力義務)
- 白トラ業者への運送委託禁止を明文化
- 真荷主の定義変更(真荷主に利用運送事業者を追加)
2.公布から3年以内に施行される規定
- 事業許可の5年ごと更新制
- 適正原価の公示と適正原価を下回る運賃及び料金の制限
- 許可基準の追加(「輸送の安全」、「事業の適切遂行」が許可基準に追加)
- 労働者の適切な処遇の確保
適正化法の概要
「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」は、トラック運送事業の適正化のため以下の内容を定めています。
- 体制の整備
・許可更新事務や事業適正化を独立行政法人に行わせること
・上記実施のための財源確保(国庫負担や更新手数料についての基本) - 法制上の必要な措置を3年以内に政府が講じること
- 物流施策の推進を図るため、物流政策推進会議を設置
適正化法は、トラック運送事業そのものを規制する実体法というより、手続法的なものですので、上記の確認にとどめ、以下は改正事業法によるトラック運送事業に関する新たな規制等を少し詳しく見ていきます。
許可更新制の導入
今回の事業法改正でもっとも大きなものは、何と言っても「トラック運送事業許可の更新制」だと思います。自動車運送事業関係では、貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)について、2017年4月から導入されています(ちなみに、貸切バス許可更新制導入時の国交省資料には「5年ごとの更新制を導入し、不適格者を排除する」と書かれていました。)
貸切バスの事業者数は2017年時点で約4,300社ほどでしたが、トラック運送事業者は2023年で約63,000社となっており、事業者数は貸切バスよりトラック運送が圧倒的に多い状況です。そのため、上記「適正化法」のところに書いたように、許可更新に関する事務を独立行政法人に行わせることとしたものです。
(トラック運送事業の許可は)「5年ごとの更新を受けなければその効力を失う」(改正事業法第6条の2 第Ⅰ項)と付帯する規定(同条第2~第5項)は、2028年6月までに施行されます。
現時点では上記の規程が定められただけで、更新が受けられる条件や具体的な手続きなどは、今後の政省令や国交省の公示等で明らかにされることになります。したがって、現時点では「5年ごとの更新制」、という以上のことは公式には未定です。未定ですが、業界紙等で報じられているところでは、既存の事業者の初回更新は、法施行後2年の経過期間を経て2030年から、当初許可を受けた年の一桁の数字を基に5組に分けて各事業者の更新年とし、許可を受けた年月日を加えて更新期限の年月日を定める、という方式(貸切バスの更新制導入時の方式)が有力視されているようです。
更新の条件はまだわかりませんが、トラック新法の想定する適切な事業者は残し、そうでない事業者には市場からの退出を促す、という意義が当然ありますので、事業者の皆様は、法令の遵守、ドライバー等の処遇向上、処遇向上のための適正運賃・料金収受…について、取り組んでいくことが求められるでしょう。
適正原価に基づくの運賃・料金制限
トラック運送の運賃・料金は事後届出が必要ですが、その額については法令上の規制はありません。2020年に国土交通大臣が標準的な運賃を告示する、という制度が開始され、2025年にその内容が改定されていますが、告示された標準的な運賃そのものに強制力はありません。
国交省が2024年に行った「標準的運賃に係る実態調査」では、74%の事業者が運賃交渉を行った、と回答しており、事業者の背中を押す一定の効果はあったといえそうですが、適正運賃・料金の収受はまだまだ不十分であるとみられるからこそ、今回の「適正原価に基づく運賃・料金制限」が導入されることとなったと考えてよいでしょう。
適正原価に基づく運賃料金制限、と書きましたが、これは
- 国土交通大臣が、トラック運送事業の適正な運営を図るための原価を定めることができ、これを告示する
- 事業者は引受ける貨物の運送に係る運賃・料金が、適正原価を下回ることとならないようにしなければならない
という大きく2つの規定で定められています。
適正原価の積算
改正事業法の第9条の2では、
国土交通大臣は、貨物自動車運送事業に係る運賃及び料金について、燃料費、全産業の労働者一人当たりの賃金の額の平均額を踏まえた人件費、減価償却費、輸送の安全確保のために必要な経費、委託手数料、事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資、公租公課その他の事業の適正な運営の確保のために通常必要と認められる費用であって国土交通省令で定めるものを的確に反映した積算を行うことにより、貨物自動車運送事業の適正な運営を図るための原価を定めることができる。
と定めています。
標準的な運賃告示制度導入時の国交省資料では、トラックドライバーの賃金は全産業平均より1~2割低く、その労働時間は全産業平均より2割長い、とされていました。導入される適正原価の積算では、賃金においては「全産業の労働者一人当たりの賃金の額の平均額を踏まえた人件費」を用いることとされているので、人件費部分による運賃・料金引上げ圧力はかなり大きくなりそうです。
また、「輸送の安全確保のために必要な経費」という点も、適正原価積算の要素として挙げられています。貸切バスの場合は、「安全投資計画および事業収支見積」が許可(新規・更新とも)の審査基準に加えられています。トラック運送の場合も、同様の基準で審査されることとなるのではないかと思われます。
運賃・料金の制限
適正原価が告示されるとトラック事業者は、
- 自らが引き受ける貨物の運送に係る運賃及び料金が当該適正原価を下回ることとならないようにしなければならない
- 他の貨物自動車運送事業者の行う運送を利用するときは、その利用する運送に係る運賃及び料金が当該適正原価を下回ることとならないようにしなければならない
努力義務であれば「~するように努めなければならい」と規定されますが、「~しなければならない」なので義務化されており、事実上の下限運賃といって良いかと思います。
ここまで見てきた、「許可更新制」と「適正原価に基づく運賃・料金制限」はともに、改正事業法の公布から3年以内に施行されます。同じ時期に施行される新規制は、「許可基準の追加」、「労働者の適切な処遇の確保」です。こちらを先にまとめて確認してから、その後1年以内に施行される規制を確認します。
許可基準の追加
改正事業法の公布から3年以内に施行される規定のうち、トラック運送事業の許可基準として追加されるのは以下の条文です。
第六条 三の二 「第十五条第一項の基準及び第二十五条第一項の基準を遵守してその事業を遂行することその他法令の規定を遵守してその事業を遂行することが見込まれること」
第15条第Ⅰ項、第25条第Ⅰ項とも、現行法のまま変わりありません。第15条第Ⅰ項は「輸送の安全」、第25条第Ⅰ項は「事業の適切な遂行」に関しての規定です。許可の基準は、新規許可も更新許可も同じものです。「輸送の安全」「事業の適切な遂行」については、新規許可時は「…その事業を遂行することが見込まれる」かどうかが審査されることになると思いますが、更新許可審査においては、これらの基準を「更新前の期間に、遵守して事業運営してきたか否か」が審査されるというのが実際のところではないかともいます。
従って、今回の許可の基準の追加は、許可の更新を申請した時に、法令を遵守しない事業者、安全管理が不十分な事業者を排除(=許可を更新しない)するための規程と考えてよいでしょう。
労働者の適切な処遇の確保
この規定は、改正事業法の第24条の6として新たな条文が加わりましたが、その前にこの改正が施行されるのと同時に、事業法第1条の「目的」が改正されます。法律の目的規程の改正というのは重要な点なので、そちらから確認しておきましょう。
貨物自動車運送事業法 第1条(目的)
(改正前)
この法律は、貨物自動車運送事業の運営を適正かつ合理的なものとするとともに、貨物自動車運送に関するこの法律及びこの法律に基づく措置の遵守等を図るための民間団体等による自主的な活動を促進することにより、輸送の安全を確保するとともに、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(改正後)
この法律は、貨物自動車運送事業についてこれに従事する者の労働環境の適正な整備に留意しつつその運営を適正かつ合理的なものとするとともに、貨物自動車運送に関するこの法律及びこの法律に基づく措置の遵守等を図るための民間団体等による自主的な活動を促進することにより、輸送の安全を確保するとともに、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
法の第1条の目的規定は、その法律の全体にかかわることであり、そこに「従事する者の労働環境の敵影な整備に留意しつつ」と加えられたのは非常に重要なポイントだと思います。物流の持続可能性確保という課題に対して、ドライバーをはじめとする貨物運送事業従事者の処遇改善が持つ意義がとても大きいことを表していると思います。
この目的規定を踏まえ、改正事業法の第24条の6は
一般貨物自動車運送事業者は、国土交通省令で定めるところにより、その事業用自動車の運転者その他の労働者が有する知識、技能その他の能力についての公正な評価に基づく適正な賃金の支払その他の労働者の適切な処遇を確保するために必要な措置を実施するものとする。
と定められました。
この条文だけでは、処遇改善をどのように進めていくかの具体的なイメージを持つことは難しいですが、この点についても追って政省令等で具体的に示されることになると思います。
以上が、改正事業法公布(2025年6月)から3年以内に施行される新しい規定でした。施行まで3年の期間を設けている=重要・大きな改正、ということで、こちらを先に解説しましたが、次に1年以内に施行される規定も確認していきましょう。
1年以内に施行される改正事業法の規定を再確認しておきます。以下の3点です。
- 下請けの次数制限(二次下請けまでに制限、努力義務)
- 白トラ業者への運送委託禁止を明文化
- 真荷主の定義変更(真荷主に利用運送事業者を追加)
下請けの次数制限
トラック新法では、下請次数は二次までとすることを、努力義務として課すことになりました。
トラック運送業界では、「多重下請構造」が常態化してきました。元請事業者から仕事を受ける事業者を一次とし、二次請け、三次受け…それ以上も珍しくないとされます。これは、運送需要の変動に柔軟に対応するというプラスの側面もありますが、問題は「多重=多段階」の下請けにより、各段階ごとに運賃から手数料が「中抜き」され、実際に貨物を運ぶ(=実運送事業者)に適正な運賃・料金が支払われない、という点にありました。
この点については、2025年4月に施行された事業法において、「実運送体制管理簿」の作成が、元請事業者に義務付けられました(詳しくは下のリンクから)。
実運送体制管理簿の義務付けにより、多重下請構造が見える化したといえるかと思いますが、これがスタートして2か月後という速さでその効果等の検証が行われる前に、さらなる法改正により二次下請けまでにとどめるよう、努力義務ではありますが、下請次数の制限が行われることとなったものです。
度重なる法改正であり、国交省や業界団体等による多重下請構造是正への強い意志が感じられるものだと思います。
白トラへの運送委託の禁止
白トラ行為=許可を受けずに「白ナンバートラックで」貨物の有償運送を行うことですが、許可を要する事業を無許可で行えば当然処罰の対象になります。これまでもちょくちょく、白トラ行為を行った事業者が逮捕されたとのニュースに接してきましたが、これまでは白トラ事業者に運送を委託すること自体を禁止する規定がなく、白トラ利用の荷主の処罰事例もありませんでした。
ところが、2025年3月に白トラ行為を行った事業者と、これに鋼材の運送を委託していた荷主事業者が、ともに警視庁に逮捕されるという事例が生まれました。これは、従来からあった白トラ行為そのものを禁止・処罰する規定について、白トラ行為者と委託者の共謀関係を認め逮捕に至ったものです。特に報道はされていないようですが、警視庁と運輸行政当局との間で何らかの協議等があって十されたものなのではないかと推察しています。
このような状況であり、白トラを使うこと自体も明文をもって禁止し、相応の処罰が直接行えるべきであるのは、自然の流れと思います。今回の改正事業法はこれを実現した、ということになります。この規定の違反は、罰金刑100万円となっています。
真荷主の定義変更
「真荷主」は、2025年4月施行の事業法で書面交付義務、実運送体制管理簿作成義務が導入された際に定義されたもので、以下の通りとされました。
⇒「自らの事業に関して貨物自動車運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者であって、貨物自動車運送事業者以外のものをいう」
この「真荷主」の定義が、2026年6月までに施行される改正事業法により、下記のように改められます。
⇒「自らの事業に関して貨物自動車運送事業者又は貨物利用運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者であって、貨物自動車運送事業者又は貨物利用運送事業者以外のものをいう」
従来の定義では例えば
「メーカー」→「利用運送事業者」→「貨物自動車運送事業者(元請)」→「貨物運送事業者(一次下請)」
と運送委託が行われた場合、利用運送事業者は「真荷主」の立場になっていました(=自らの事業に関して貨物自動車運送事業者と運送契約を締結して貨物の運送を委託している、から)
2026年6月までに施行される改正事業法によると、利用運送事業者は貨物自動車運送事業者と並列の立場になるため、真荷主には該当せず、トラック事業者と同様に、書面交付や実運送体制管理簿の作成などの義務が加重されることになります。
関連リンク
まとめ
ここまで、2025年6月に成立し、1年後または3年後までに施行されることとなった改正事業法(貨物自動車運送事業法)を中心に、その概要を確認してまいりました。
実際の法律の施行までには、貨物自動車運送事業法施行規則が改正され、前後して国土交通省から通達や発表資料等が出されて、実務に対応する詳細が判明してくるということになり、現時点では法規制の方向感をベースにした全体像が見えてきた段階です。
とはいえ、許可更新制、事実上の下限運賃制といった、ここ数年ではない規模の大きな法改正であり、今後のトラック運送事業の在り方に与える影響は非常に大きいものになると思われます。1年後の一部施行、3年後の全面施行に向けた、行政、関連団体その他の動きを注視しつつ、明らかになっていく事項については、このサイトで順次共有していきたいと思います。
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