利用運送事業と貨物取次事業

モノ(貨物)を運ぶ仕事、といえば一番身近なのはトラックなどによる貨物自動車運送業ですよね。これは、運送業を行う事業者がトラックやドライバーを用意して、荷主や元受け会社などからの依頼により運賃を受けて貨物を運ぶ事業です。

これに対して、トラックやドライバーがなくてもできる運送事業があり、これを「貨物利用運送事業」と呼んでいます。詳しくは下記のページで解説していますので、ご参照ください。

それでは、ネット通販などのECに関して在庫管理や受注、出荷等をサポートするフルフィルメントサービスを提供する事業者の場合、貨物利用運送事業の登録または許可が必要でしょうか?今回はこの点について考察してみます。

貨物利用運送事業とは

上記リンクのページでも解説していますが、貨物利用運送事業とは「他人(荷主)の需要に応じ、運送責任を負って有償で、実運送事業者を利用して貨物を運送する事業」をいいます。なので、当然のことながら自社の荷物を宅配便事業者に運送してもらうというのは利用運送には当たりません(”他人の需要に応じて”…に該当しない)。

運送責任とは

利用運送の定義に「運送責任を負って」とありました。では運送責任とは何でしょう?これは商法に答えがありました。商法の第二編(商行為)ー第八章(運送営業)ー第二節(物品運送)にある条文、第575条を見てみましょう。

運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間にその運送品が滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は運送品が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(後略)

商法第575条

つまり、運送責任とは依頼された貨物を、「正しい届け先に、無くなったり壊れたりさせずに、遅れずに」届ける責任ということになります。これは、請負人が仕事の完成を約束し、相手方がこれに対して報酬を支払う約束をすることで成立する「請負契約」の一つです。

したがって、運送を依頼された荷物が損傷してしまったり、延着した場合などの場合は、運送人は荷主に対して損害賠償義務を負います。これが、「運送責任を負って」ということの内容です。

利用運送に当たらないケース

話を単純にするために、コンビニエンスストアの店頭で、宅配便の発送を受け付ける場合を考えてみましょう。

コンビニエンスストアの外観と駐車している車

コンビニのお店が宅配荷物の発送受付を行っても、当然のことながら自社で荷物を運ぶことはありません。ヤマトや佐川などの運送業者に取り次ぐことになります。とはいえ、コンビニのお店もビジネスですので無料サービスで取り次いでいるわけではなく、何らかの手数料を受け取って行っていると思います。

ただし、取次の手数料は受け取っても、運賃そのものは受け取っておらず、したがって運送責任は負いません。コンビニ店頭から発送した宅配荷物が届いたときには損傷していた、としても、コンビニのお店は責任を負わず、その責任は宅配を行う運送業者が負うことになります。

フルフィルメントサービスの場合

ECサイトに対してフルフィルメントサービスを提供する場合、在庫管理、受注処理、ピッキング、梱包、発送…といった形で、上記のコンビニでの宅配荷物の取次よりも複雑、広範なサービスになりますが、運送サービスと運送責任の部分に着目していえば、コンビニの宅配便取次と同様の事業といえます。

したがって、このようなECサイトへの支援サービスにおいて、運送責任を負うことなく発送・配送の取次を行う場合には、貨物利用運送事業の登録(第1種利用運送)や許可(第2種利用運送)は必要ない、ということになります。

倉庫とフォークリフト

貨物取次事業とは

貨物取次事業の場合、2003年(平成15年)から登録制が廃止され、現在は特に規制が行われていないため、だれでも自由に行うことができます。

貨物取次事業に当たる事業の事例は以下のようなものです(国土交通省WEBサイトより)。

  1. 求車求貨システム
    荷主(運送事業者を含む)が輸送してほしい貨物の情報(量、種類、現在地、目的地、希望運賃等)を掲示板やデータベース等に出し、運送事業者がこれに応募して成約した場合に、荷主と運送事業者との契約締結に直接関与し、その対価を得る事業。
  2. インターネット通販
    商品等の配達をする際に、通信販売会社が消費者と運送会社との間の契約を締結し、契約締結に係る対価を得る事業。

ここで、貨物利用運送事業と貨物取次事業の違いを簡単な図で整理してみましょう(図は、国土交通省「利用運送Q&A」より引用)

まとめ

このように、実際にトラックやドライバーを用意して行う運送事業(実運送事業)以外に、物を運ぶビジネスの形態がいくつかあります。このページで解説した利用運送、貨物取次の他、書面等を運ぶ場合には郵便法の関係で運ぶ対象物が「信書」に当たるかどうか、ということもあります。信書の送達も現在は国の独占事業ではなく民間も参入可能ですが、総務大臣の許可が必要な事業となっています。

このように、モノを運ぶビジネスも昔に比べると規制が緩和されているのですが、参入に際しては必要な許認可をうけないと法令違反になってしまうリスクもありますので、ビジネスの展開に際しては注意も必要です。

自動車でモノを運ぶイビジネスでお悩みのことがありましたら、ご遠慮なく下記にご相談ください。初回相談は無料です。

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